「逃げ去り取り戻せないのは時 fugit inreparabile tempus 」(ウェルギリウス『農耕詩』第3歌284行)。21世紀に入って既にほぼ四半世紀が飛び去りました。この間、日本のGDPは世界第三位にかろうじて止まっています。しかし働く人の平均給与はOECD28ケ国中で22位、報道の自由度ランキングは180ケ国中71位、ジェンダーギャップ指数は146ケ国中116位あたりを低迷し続けています。かつて「最高学府」などと言われた日本の大学の最近の低空飛行ぶり(研究論文の質と量の低下)を危ぶむ特集が海の内外の雑誌で組まれたこともありました。しかし、国家(や政府)の格付けや劣化と、そこに住む個々人の品格や生活の豊さはまったく別の事です。そのことは旅をしてギリシア人やイタリア人に接すると、感嘆とともに感得されることではないでしょうか。
イタリア人の作家イタロ・カルヴィーノは、20世紀末にハーヴァード大学で行うはずの6回の連続講義の準備中に急逝しました。残されていた「新たな千年紀のための六つのメモ(SIX MEMOS FOR THE NEXT MILLENNIUM)」には、これからの文学に必要なものとして「Lightness, Quickness, Exactitude, Visibility, Multiplicity, Consistency」という6つの項目が挙げられていました。軽くあること、速くあること、正確であること、目に見えるものであること、多数(多様・多層)であること、一貫性のあること。これらを知ったとき、これは文学に限らず生活の全般に適用すべきかも知れないと感じました(たとえば卑小な例で恐縮ですが体重の増減の「見える化」など)。それだけでなく、これらの項目は、川島先生の現地での名ガイドのみならず、アンナさんやリナさん、バスの運転手さん(ときに参加者)の総力を結集して実施されている現地での「川島先生と行くギリシア旅行」にも当てはまるのではないか。そうも、感じました。
今回は、この三月と四月に再開された「現地」版ギリシア・ツアー、その雰囲気にオンラインで気軽に触れていただけるものにしたいと考えています。川島先生のツアーに実際に参加したことのある人には周知のことですが、臨機応変に旅程を変更し(まくり)ながらの、ときに早朝から深更に及ぶこともある、楽しい旅になったと聞いております。今回訪れる場所は、ペロポネーソス、ボイオティア、アッティカ、クレタ島など、すでに何度か案内した場所とはいえ、新たに学ぶことも多々あるのではないかと確信しています。上に「最高学府」などという死語を使いましたが、倦むことのない独学こそ、この名称を授けるに値すると思われます。このオンライン・ツアーに参加し、資産の形成にも栄誉の増大にも役立たないにもかかわらず、真摯に学び続けようという皆様のような方たちが存在する限り、日本もまだまだ、この先千年とは言いませんが百年くらいは、捨てたものではないのではないでしょうか。
記
日時: 2023年6月10日(土) 14時「出発」
*今回は従来のように日曜日ではなく土曜日の開催になりますので、ご注意ください。
司会: 佐野 好則
案内役: 川島 重成
主たる訪問地:ペロポネーソス、ボイオティア、アッティカ、クレタ島など
※ まだ登録がお済みでない方は、6月8日(金)20:00までに、下記のWebアドレスからご登録下さい。
6月9日までに、アクセス情報をお知らせ致します。
https://forms.gle/JFPasTF5donnTsRv8
文責者:荒井直(CPS事務局)