ポール・ヴァレリーは、エッセイ「精神の危機」への「付記(あるいはヨーロッパ人)」
で、何がヨーロッパ人を形成したのかを問い、ローマ法の遵守とキリスト教の信仰を挙げ
ます。この二つを満たせば「ほぼ完成されたヨーロッパ人 un Européen presque achevé」
とはいえ、いまだ「完璧なヨーロッパ人 des Européens accomplis」ではなく、欠けてい
るものがあると言います。欠けているのは「わたしたちの知性の最良のもの、わたしたち
の知識の繊細・堅固さ、…わたしたちの芸術と文学の明快さ、純粋さ、そして品位
distinction」がそれに負っている「かの力 cette action」であり、その力とこうした「も
ろもろの美徳 vertus がわれわれにもたらされたのはギリシアからなのです」と論じてい
ます。ヨーロッパ人を他の地域の人間と最も深いところで隔てるのは、ヴァレリーによれ
ば、「わたしたちが精神l’Esprit の規律、あらゆる領域における完璧さの並外れた範例を
ギリシアに負っている」ことなのです。
この付記は、「ヨーロッパ的知性の最も典型的な特質の範例」とされるのはギリシアの
生んだ「幾何学」であると続きます。たしかに、幾何学なしにパルテノン神殿はじめ各地
の神殿は存在しなかったでしょう。しかし、どこが聖なる場所かを直感し、どこに神殿を
建てるべきかを決定するのは幾何学的精神でしょうか。曖昧な言い方ですが何か「身体知」
といったものではないでしょうか。「ラングドックのベニス」と称されるセートで生まれ、
モンペリエで学び、ジェノヴァで決定的な精神的決断をした「地中海人」であるヴァレリ
ーが、それを知らないはずはありません。「この世界でもっとも幸福な種族、わたしはそ
れをネズミイルカの小さな群の中に見出す思いがする。船の上からネズミイルカたちを見
ると、半神を見ている思いがする」と書き(「海へのまなざし」)、わたしにはヴェルギ
リウスの『農耕詩』の中にぴんと来るものは何もないが、「膨大な水・その動きの中へと
身を投じ、からだの隅々まで頸筋から爪先まで動かし、この純粋で深遠な物質のなかで身
を翻し、神聖な海の塩気を吸い込み吐き出すこと、それはわたしにとって恋愛にも比すべ
き遊びである」と泳ぐこと<の>喜びを語り、さらには「単純に感覚体験としての、至高
の現象としての太陽、そしてそれがわたしたちの思想形成に及ぼす力」さえ指摘している
のですから(「地中海的インスピレーション」)。
今回のオンライン版ギリシア旅行は、トルコ、南イタリア、そしてシチリア島に点在す
るギリシア遺跡を訪れる前に、ギリシャ本土、クレタ島、エーゲ海の島々を「再訪」する
予定です(大部分はこれまでのツアーでご案内した所ですが——反復も無意味にならないこ
とを願っています——、なるべく別の写真を用いて、新しいアスペクトを加味するように努
めます)。いよいよ3月下旬、4月上旬に川島先生と行く現地踏破版のギリシア旅行が再開
になります。路上の人 viator となり、ギリシアの空と太陽、大地と海を、地中海の潮の
香りを、ヴァレリーのように、みずからの「身体知」で満喫する機会が与えられるわけで
すが、そうした至福体験を享受する予定の the Happy Few の方たちにとっては、直前の
シミュレーションにもなることと確信しています。
記
日 時 2023年3月12日(日) 14時「出発」
司 会 佐野 好則
案 内 役 川島 重成
主たる訪問地 ギリシア本土、クレタ島、エーゲ海の島々
※ まだ登録がお済みでない方は、3月10日(金)20:00までに下記のWebアドレスからご登録
下さい。前日までにアクセス情報をお知らせ致します
https://forms.gle/GG3xToymaVBV6PyA9
文責:荒井直(CPS事務局)