今年2022年は、ジェイムズ・ジョイスが『ユリシーズ(=オデュッセイア)』を刊行して100年目という記念の年に当たります。ジョイスと同じアイルランド出身の古典学者は、ある著書*でホメロスの『オデュッセイア』の近現代の作家による変奏のうち最重要の二つに、同郷であるジョイスのこの小説とクレタ島出身のニコス・カザンザキスの叙事詩『オディシーア(=オデュッセイア)』(1938年)を挙げています。
カザンザキスは、ギリシア独立後の初代首相であるエレフセリオス・ヴェニゼロスのもとで、黒海とカスピ海に挟まれた地域で難民状態になっていたおよそ15万人に及ぶギリシア人のギリシアへの「ノストス(帰還・帰郷)」を成功に導きました。ところが、33,333行からなる彼の叙事詩『オディシーア(英訳では The Odyssey : A Modern Sequel)』の主人公は、10年の歳月と苦難の後に帰還したイタケに腰を落ち着けることなく、故郷を発ってクレタ島のクノッソスや、エジプトのナイルなどを訪れ、ついには南極に至り、そこで最期を迎えます**。自分を束縛するあらゆるものを断ち切り、自由を求めて、永遠に帰還することのない旅に出発する−−−という展開は、いかにもカザンザキス的な気がします。
私たちCPS(Corpus Photographiarum Shigenarianarum)のメンバーは、この「オンライン・ギリシア旅行」を準備する過程で、川島先生とともに写真を選んだり、写真についてコメントを伺ったりするという得難い経験をします。そのときに切迫して来るのは、<出来事の一回性>、つまり一枚の写真の出来事は<最初で最後の経験である>という感覚です。そのようなときの先生は、ノスタルジーに耽ることなく、その都度その都度、<まだ出会ったことのないものとの再会>を期しているかのようです。
今回で3回目となる川島先生と行く「オンライン・ギリシア旅行」ですが、今回からの参加者でも旅の仲間に溶け込んでいただけるよう、以前の回でも訪れたアテネやクレタ島を(さらに深く)取りあげた上で、エーゲ海の島々や、通常のツアーではほとんど訪れることのないボイオティア、アスクラ、そしてテルモピュライやカイロネイアの古戦場、パルナッソスなどへも足を延ばす予定でいます。見逃し配信で何度も見るのであれ、その都度が一回限りの出来事である、秋の午後の「オンライン・ギリシア旅行」への皆様のご参加をお待ちしております。
*W. B. Stanford, The Ulysses Theme: A Study in the Adaptability of a Traditional Hero, Oxford: Basil Blackwell, 1968)。
**オデュッセウスがイタケを発ち、ヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)で地中海を後にして南西に向かうこと5ヶ月、南極近傍に至る−−−というダンテ『神曲』第26歌を踏まえたのかも知れません。
記
日 時 : 2022年10月2日(日) 14時「出発」
司 会 : 佐野 好則
案 内 役 : 川島 重成
主たる訪問地 : アテネ、クレタ島とエーゲ海の島々、ボイオティア、パルナッソス方面
※まだ登録がお済みでない方は、10月1日(土)17:00までに下記のWebアドレスからご登録下さい。
https://forms.gle/jBq3HkBzQVQ42oDZ8
10月1日(土)20:00までにアクセス情報をお知らせ致します。
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